そのまま固く引きしまった胸に抱きとめられてしまう。

 近づいてくるくちびる。

「かっ、楓くん!」

 わたしはおどろいて、ドン! とその胸を突きとばした。

 初恋の経験すらないわたしでもわかる。

 もう少しでキスされるところだった……!

 心臓がバクバクして、うまく息ができない。

「何、するの……?」

 胸をおさえながら、息も絶え絶えにそう言うと。

「何ってキスだけど」

 肩で息をしているわたしを見ながら、楓くんは鼻で笑った。

 やさしくしてくれたのがウソみたい。

 とても意地悪な笑みだった。

「この程度で逃げるのか? 理子、わかってんの? あの樹もやることは同じだよ」

「!」

「……なんてね。理子には刺激が強すぎたみたいだなー」

 ニヤッと笑う楓くん。

 かあっと頭が熱くなった。

 からかわれた!

 わたしは歯をグッと食いしばって、ふるえるコブシを握りしめた。