「へ、へえ~。歯医者にね~。あっ、ひょっとして虫歯?」

 わたしは下から楓くんの口をのぞきこもうとした。

「うっさい、ほっとけ!」

 図星だったみたいだ。楓くんはプイッと顔をそむけ、わたしの視線をさけた。

「恥ずかしがらなくていいのに」

「そういう理子こそ、まだ帰ってなかったんだな。あ、そっか。おまえ、のろいもんな」

 チラッとわたしを見て、ニッと白い歯を見せた楓くん。

 むうっ。

 なんで、そういちいち、ひとを怒らせるようなことを言うのかな。

 さっきは女子にうけようと、曲芸まがいのことをしていたくせに。

「あーっ、虫歯!」

 と言ってやったら、

「げ!」

 楓くんはあわてて、片手で口もとをかくした。

「ウソだよーん」

「やってくれたな!」

 うわさのせいでふさぎこんでいたことも忘れて、わたしは笑った。

「のろいから遅くなったんじゃないよ。帰る時間をわざと遅くしたの」