「身支度に時間かかるなら、もっと早く起きればいいだろ? おまえを待っていると、サッカー部の朝練に遅れちまう」
小さいころから真っ黒に日焼けしてボールを追いかけていた楓くんは、今もサッカーのことしか頭にない。
「だから、ゴメンって言ってるじゃん」
「ゴメンで済む世の中なら警察はいらない、つーの。わかったなら行くぞ、さっさと歩け」
言いたいことを言ってしまうと、楓くんはきびすを返し、自分ひとりだけエレベーターに向かってスタスタ歩きだす。
なんなの、それ~!
一方的な態度に、むうっ、と腹がたってきた。
この横暴な幼なじみに、言いたいことを言わせたままでいいのでしょうか。
「いいわけない!」
脳内のわたしが怒ってゲンコツをムチャクチャ振りまわしている。
でも、言っていることが正しいだけに言い返せないんだ。
中学に入学したとき、心配性なうちのお母さんが「理子といっしょに登校してくれる?」って、このふたりの幼なじみにお願いしちゃったもん。
それがなければ、わたしだって楓くんの背中にカバンを投げつけるところだよ。
じとっとした目で楓くんの背中をにらみつつ、ムスッとしていると。
ポンポン。
あたたかい手がわたしの頭にやさしく触れてきた。
