ドアを開けて玄関に入ると、お母さんが音を聞きつけてやってきた。
「あらあら、傘を持ってなかったのね。頭を拭かなきゃ、タオルタオル!」
洗面所から持ってきたタオルで、わたしのからだのあちこちをゴシゴシ拭きだす。
「手のほうはだいじょうぶだった?」
思わずギクッとしてしまった。
胸の中の、ずっとずっと奥のほうで、ドキンドキンと音が鳴っている。
「うん、樹くんがカバン持ってくれたから……」
か細い声しかでなかったけれど、不審がられなかった。
「そう、よかったわ。すぐ着替えて、制服はハンガーにかけておくのよ。しわになっちゃうからね」
お母さんはいつものようにそう言うと、足早にリビングへ。
わたしも自分の部屋に入り、カバンをおろした。
お母さんに言われたとおり、制服を脱いでハンガーにかけた。
制服は少し湿った程度だ。カーテンレールにつるしておけば、明日の朝までには余裕で乾くだろう。