わたしが楓くんの病室に戻ると。
「やっと戻ってきたか」
楓くんは待ちくたびれたようにそう言った。サッパリとした、明るい笑顔だった。
「戻ってきたよ」
えへへ、と笑いながらベッドに近づき、丸イスに腰をおろした。
病室にふたりきりだから、なんか照れちゃうな……。
話したいことはたくさんあった。
けど、そのとっかかりがつかめない。
もじもじしながら、うつむいていたら。
「理子」
楓くんにやさしく名前を呼ばれた。
そっと見あげる。
楓くんの黒い瞳が、わたしをのぞきこんでいた。
「真っ暗なとこでひとりぼっちでいたとき、理子の声が聞こえたような気がしたんだ」
わたしはおどろいて、パチパチまばたきをくり返した。
「おれを助けてくれたのは理子だと思う」
「本当?」
「ああ、本当だよ。戻りたくて必死だったもん、おれ」
