「樹くん……」
「理子……」
サラサラの栗色の髪に、スーッと鼻筋が通った顔立ち。
真っ青な顔の楓くんは、樹くんであるはずだった。
でも、その顔を見た瞬間、ドクンと重く鼓動が響いた。
楓くん……じゃない!
わたしを見つめる薄茶色のその瞳は、まちがいなく樹くんのものだったんだ。
ドクン、ドクン。
ドクン、ドクン。
「ねえ、樹くん、楓くんは……?」
足の先から、じわじわと冷たい感覚がのぼってくる。
ドクン、ドクン。
ドクン、ドクン。
歯の根が合わないほどの恐怖を必死におさえながら、樹くんを見つめつづけた。
「だいじょうぶ、なんだよね……?」
しばらくの沈黙。
「すみません、理子に話したいことがあるので、少しのあいだいいですか? 母をおねがいします……」
樹くんはうちのお母さんに断ってから、わたしを処置室の通路から連れだした。
