すると、楓くんの笑顔に元気が少し戻ったような気がした。
「サンキュー」
わたしたちは家とは反対方向の電車に乗った。
しばらくすると、車窓に青い海が見えてきた。
きらめく光。洗いたてのように真っ白な雲。
目の前に広がった海は、わたしたちの手に余るほど、とてつもなく大きい。
「楓くん、海だよ! 広いねえ。あっ、あの岩、すごい!」
わたしが景色を見ながらはしゃいでいたら、
「あの切り立った岩、獅子岩って言うんだ。ギザギザのとこ、たてがみみたいだろ」
楓くんは説明してくれた。その声もどことなく明るく弾んでいる。
「へえー」
砂丘から海へとせりだした、その大きな岩は確かにライオンの横顔に見えた。
「楓くん、よく知ってるんだね」
「昔、家族で何回か来たからな。そのとき教えてもらった」
楓くんはなつかしそうに海を見つめていた。
あの岩、少し楓くんに似ているね。
