静かにそう言って、樹くんは東屋をでていく。
どうして心の痛みを抑えるクスリはないんだろう。
わたしも楓くんが好きだから、後藤さんの悲しみが痛いくらいわかった。
ザックリと切り裂かれたようだった。
恋ってこんなにフクザツで、苦しいものだったんだ。
*
わたしと楓くんは、駅に向かうあいだ無言だった。
うつむいて、自分の影を踏むようにして歩いていると。
「なあ、理子」
楓くんに呼ばれた。
フッと顔をあげたら目があった。
「海に行かねーか?」
楓くんは笑っていたけれど、その瞳の中に悲しみの光が宿っている。
「こんな気持ちで帰るのはイヤなんだ」
ハッとした。
楓くんも傷ついているんだ……。
わたしは楓くんの手をキュッとにぎり、笑みを返す。
「うん、いーよ。海、行こ」
