「安心しろ、向こうが話しかけてくるだけだから。第一、アニキが好きなのはおまえだろ」

 楓くんはキッパリそう言ったあと、しまった、という顔をした。

「あー、何言ってんだ、おれ……!」

 楓くんは焦りはじめた。オタオタしながらだったけど、それでも話をつづけた。

「とっ、とにかくだな! 心配するな、ってことだよ……」

「………………」

 頭の奥がシーンと静まりかえる。

 真夏なのに、からだも心も冷え冷えとしてきた。

 楓くんは、わたしが樹くんを好きだって思いこんでいるんだ。

 わたしが好きなのは、楓くんなのに……。

 コクンとツバを飲みこんだ。

「なぐさめてくれたんだー。ありがとう、楓くん。やさしいね」

 わたしは笑って、楓くんの肩をたたいた。

「あのなあ、カンチガイするのもいーかげんしろ」

 楓くんは歩のスピードを上げた。わたしを置いて先に行ってしまう。