「楓くん、必ず元に戻れるよ。だから、そんな顔しないで、ねっ?」
わたしはできるだけ明るく、風の音に負けないように大きな声で話しかけた。
「けど、おれたちが元に戻ったら、おまえアニキとつきあうんだろ?」
楓くんが、わたしをのぞきこむ。
「えっ」
「樹のこと、好きなんだろ?」
こんなところで、こんなときに?
わたしは、とまどってしまった。
樹くんのことは好き。大事な幼なじみだ。
でも、そんなカンタンに言えないよ。
だって今のわたしは、楓くんが好きだと気づいているから。
「好き」という言葉の重みを知ってしまったから。
「……わかんない。そのときになってみないと」
細く、かすれた声にしかならない。
ウソをついちゃった。
それでもキチンと質問には答えた。
なのに、楓くんのコブシが木の幹を軽くたたいた。
「なんなんだよ、それ。おまえさ、本当にアニキが好きなのか?」
