「楓くん」って言わないといけないんだった――!!
あわてて高くあげたうでを引っこめる。
さいわい、まわりのみんなは気づいていない。
ほっ、よかった。
胸をなでおろしたら、楓くんがニヤニヤとわたしを見ていた。
「バーカ、まちがえんなよ。樹はおれだろ」
「そうでした……」
はあーあ、うっかりしていたよ。あぶない、あぶない。
「二度とヘマをするんじゃねー! これはお仕置きだ」
「いたっ」
おでこを指でピンとやられちゃった……。
*
グラウンドから少し離れた木陰の下で、樹くんを待っていたわたしたち。
夏風邪のせいで応援に来られなかった優雨ちゃんあてに、練習試合の結果をメッセージで知らせた。よし、これでオッケーっと。アプリを閉じる。
「済んだか?」
足もとの石ころをけとばしていた楓くんが、わたしをふり返った。
「うん」
「あとは、樹だけだな」
