どのくらいそうしていただろう。
ホイッスルを口にくわえた審判が、腕時計を何度もチラチラ気にしはじめたんだ。
その理由は、わたしにもカンタンにわかった。
「もう時間がないんだ……!」
「樹、はやく! はやく行け……」
楓くんがからだを小刻みに揺らす。
バシッ!
樹くんが相手チームのパスをカット。
そのまま巧みなドリブルで相手ゴールに向かって攻めていく。
「行け!」
楓くんが興奮して身を乗りだした。
でも、相手チームの何人かが樹くんのまわりを囲むように走っている。
みんなからだが大きくガッチリしていて、二回もファウルをとられている選手もいた。
樹くん、だいじょうぶ?
ひとりでゴール前に持っていくなんて無理だよ。
あまり無茶をしないで……!
祈る思いでハラハラ見ていると。
あっ、あぶない!
樹くんがタックルをされて、地面に転がってしまった。
