樹くんがこのユニフォームに手を通したのは初めてだった。もちろん楓くんにとっても。
わたしの隣にいる楓くんは、まぶしそうに目を細め、グラウンドを見つめている。
あのユニフォーム、自分が着たかっただろうな。
今どんな思いで、樹くんを、チームメイトたちを見ているんだろう。
いてもたってもいられないだろうな。
ヒザの上で固く握りしめられた楓くんの手に、わたしは自分の手を添えた。
「緊張してる? じつは、わたしもなんだ。スゴくドキドキするね……」
えへへ、と笑ったら、楓くんは不安げな表情でグラウンドの時計を見あげた。
「もうすぐ、はじまるな……」
相手チーム校もすでにグラウンド入りしていた。イレブンが円陣を組んで、練習試合なのにまるで本番みたいな意気込みだ。
楓くん(本当は樹くんなんだけど)の復帰ということもあって、コートのまわりにも女の子たちがたくさん集まってきている。
みんなに注目されているこの試合、できれば勝ってほしい。
