「お帰り、恋衣」
「恋衣、帰って来てたんだね」

「茉衣《まい》ちゃん、歌衣《かい》くん、ただいま」

姉の茉衣ちゃんと兄の歌衣くんが出むかえてくれる。

「あ…お母さん…たっ…ただいま」

「恋衣。
あんたの学校から電話があったんだけど。」

怖い。
怖い、怖い怖い怖い怖い⋯。

「あのっ、私、ちょっと体調悪くしちゃって⋯」

「は?
たかが体調で電話?
うざっ。
二度と電話すんなって言っといて。」

酒持って来い、と私の耳にお母さんの投げたガラスのコップがあたった。

「いた…」

そっと耳をさわると赤いドロッとしたものが手につく。

ああ、血だ⋯。

「はやく酒持って来てって言ってるでしょ!?
はやく持って来て!」

どうして私はこの家に生まれて来たのか…。

「は、はいっ…」

私は痛む耳をおさえてキッチンから焼酎をもって来る。

「恋衣、大丈夫⋯?」

「うん、大丈夫。
心配かけてごめんね」

歌衣くんだって、顔になぐられたアザがあるのに、私の心配をしてくれるなんて優しい。