2人の間にスパッと降りてきたような壁におびえながらも、楓は気づかない振りをしていたかった。
理由を聞いたらそこで終わってしまうかもしれない。
その心の準備が追い付かない。気づかない振りでやりすごせるなら、まだそうしていたかった。
不自然さにいたたまれなくなった楓が「映画のはしご、久しぶり。どっちも面白かったね」と明るく声をかけてみるが樹からは「うん」と短い返事が返ってきただけで会話はすぐに途切れた。
「ご飯、食べる?」と聞かれて、楓はとまどう。
「ご飯、食べる?」ではなく「なに食べる?」のはずなのに。
食べずに帰る選択肢が設けられたことなどこれまでなかった。
12年間もくりかえしてきたのだ。
楓が樹の変化に気づくのには十分だった。
もちろん楓は樹とご飯を食べたかったし、いつも通り食事をするつもりでいた。
うんと返事をして「樹は帰りたい?」と顔色をうかがいながら遠慮がちにたずねる。
さっきと同じようにそうならないで欲しいと本心では願いながら。
「いや、話があるし」
「いや」でほっとして緩んだ心臓の筋肉が、次の「話がある」ですぐにぎゅっと収縮した。
やっぱり本命登場の話かと楓は雨で黒く塗れたアスファルトに視線を落とした。
ずっと考え事をしているかのような樹はそんな楓に気が付かず、楓が視線を上げたときには数メートル先を歩いていた。
理由を聞いたらそこで終わってしまうかもしれない。
その心の準備が追い付かない。気づかない振りでやりすごせるなら、まだそうしていたかった。
不自然さにいたたまれなくなった楓が「映画のはしご、久しぶり。どっちも面白かったね」と明るく声をかけてみるが樹からは「うん」と短い返事が返ってきただけで会話はすぐに途切れた。
「ご飯、食べる?」と聞かれて、楓はとまどう。
「ご飯、食べる?」ではなく「なに食べる?」のはずなのに。
食べずに帰る選択肢が設けられたことなどこれまでなかった。
12年間もくりかえしてきたのだ。
楓が樹の変化に気づくのには十分だった。
もちろん楓は樹とご飯を食べたかったし、いつも通り食事をするつもりでいた。
うんと返事をして「樹は帰りたい?」と顔色をうかがいながら遠慮がちにたずねる。
さっきと同じようにそうならないで欲しいと本心では願いながら。
「いや、話があるし」
「いや」でほっとして緩んだ心臓の筋肉が、次の「話がある」ですぐにぎゅっと収縮した。
やっぱり本命登場の話かと楓は雨で黒く塗れたアスファルトに視線を落とした。
ずっと考え事をしているかのような樹はそんな楓に気が付かず、楓が視線を上げたときには数メートル先を歩いていた。
