「楓ちゃんにそんな顔をさせるなんて樹も罪なやつだな」
「いやいや、今こんな顔になっているのはユーゴさんのデリカシーに欠ける発言のせいですから」
「冗談だよ。でも笑い飛ばせないのは、そうかもって楓ちゃんも思ったからで、それって樹のせいだろう」
「そう言われればそうですけど」
「笑い飛ばせばいいんだよ」
「はい?」

何を笑い飛ばせばいいというのか。
ついしわを寄せた眉間を楓は中指で押さえる。
そんな楓を笑い、ユーゴはひょうひょうと言う。

「万が一、樹が冗談でもそんなことを言ったら笑い飛ばせばいいんだよ。楓ちゃんの絶対を一番願っているのは樹なんだからさ」

緑の向こうから川を渡り、熱した石浜を滑って風が通りすぎていく。
まだ20代に見える若い父親が両手で小さな男の子2人の手を握り川に向かって歩いていった。
子供たちはお父さんお父さんとしきりに話しかけながら楽しくてたまらないというように、まるで仔犬がじゃれるようにぴょんぴょん撥ねる。
父親が青空に顔を反らして笑う。

「俺らも行こう」

ユーゴの差し出す手を楓は握った。
私は、日向楓は樹が好きなのだ。
絶対に好きなのだ、と心の中で復唱しながら。