健夫は美幸と同じ化粧品メーカーと大手商社の2社から内々定をもらってどちらにするかぎりぎりまで迷っていたが、最終的に大手商社を選んだ。

「日向さんと樹君だって別々だもんね」
「普通はみんな別々でしょ」
「でも美幸さんと順調そうね」
「うーん、まあね。でも樹君にはしょっちゅう連絡しているみたいだよ」
「そうなの?」
「美幸さんに樹君が内定もらったこと話しちゃったんだよ。そしたらじゃあ、暇なのねって」
健夫は美幸がくいつきそうな話はすぐにしてしまう。それが自分にとっては不利になるかもしれないなどと考えることもなく。
「もしかして私たちが就活真っ只中のとき2人は一緒に遊んでいたとか」
「ダブル不倫! て、僕たち別に夫婦じゃないもんね」

じゃあダブル二股かと健夫は笑う。

「健夫君、美幸さんに夢中なわりにはのんきだね」
「だって今に始まったことじゃないじゃん」
「それでいいの?」
「あ、でさ、彼女が4人で就職祝いしようって」

楓の問い掛けはスルーだ。
いいとは思っていないだろうが止めようもないし、そんなことを答えるのが面倒くさいのだろう。

「遠慮しておく。なんで二股のペアで祝わなくちゃならないのよ」

ユーゴとりか子とのダブルデートの苦い思い出が蘇る。

「でも樹君はOKだってよ」

ちっ。楓は声に出して舌打ちをした。