楓はどうしても樹と同じ大学に通いたくて、これまでの志望校よりランクをあげて、樹と同じ大学を受験することにした。
担当の先生も両親も、実は楓自身も無理だろうと思っていたのに、樹だけは大丈夫、きっと受かるよと根拠なく応援してくれた。

この適当な言葉に楓は俄然やる気を出して、早朝から深夜まで受験勉強に打ち込んだ。
大学のキャンパスを一緒に歩き、図書館で一緒に勉強し、カフェで一緒にお茶を飲む――樹との大学生活を妄想しながら猛烈に受験勉強に励んだ。

その結果、樹と学部は違うが、同じ大学の一番入りやすそうだった学部になんとかギリで合格できた。
愛の力は強い。楓は自分のことながら感心した。

高校生の頃、何となくかっこよかった樹は、大学生になるとはっきり「イイ男」になっていた。少しシャープになった大人びた頬、無邪気さに色気が加わった瞳、高3の時、楓より少し高かっただけの身長はグイグイ伸びて185センチになっていた。

高校生のときでさえあれほどモテていたのだ。ここではどれだけの女子を引き寄せるのだろうかと楓は不安になった。
だから楓は樹になるべくくっついていたかった。
なのに、樹は学部が違う上にいつもゼミだったりバイトだったり、同じ学部の友人との付き合いだったりと、楓が思い描いていたほど樹と一緒に過ごす時間はなかった。