ユーゴが指定してきた店はホテルから20分あれば着く場所にあるカジュアルなイタリアンレストランだった。
細長い店内の奥の席に案内されると、ユーゴとりか子は横隣りに座ってビールを飲んでいた。

「今晩は」

楓はふたりに挨拶してから「はじめまして、日向楓です」と改めてりか子に向かって軽く頭を下げた。
彼女もわざわざ立ち上がり、「初めまして、椎名りか子です」と笑みを浮かべて挨拶をした。

目元を緩めた彼女の印象は楓がイメージしていたものとはずいぶん違った。
出張でアメリカに行き、ついでに朝から樹の寮までおしかけるような行動力があり、ユーゴがデロデロになっているような人だから美しくパワフルなバリバリのキャリウーマンを勝手に想像していた。
しかし目の前のりか子はナチュラルメークで肩上で揃えた髪を右サイドだけ耳にかけ、美人というよりベビーフェイス。
パワフルと言うより多分多くの男が守ってあげたいと思うような雰囲気だ。
色気がある少女のようで、美人じゃないけど男性から圧倒的人気を誇る小柄な女優に似ている。

ユーゴが従弟の樹にさえ不安を抱くのも理解できる。
楓も樹とりか子が同じ屋根の下で暮らしていたのだと思うといろいろと勘繰りたくなってしまう。
この人が樹の本当のお姉さんだったらよかったのにと思う。