2度目のシャワーを浴びて身支度を整え終わった頃には4階の部屋の窓からのぞく空は薄墨かかった紫色に変わっていた。
お腹が空いたねと話しているときに、樹のスマホが鳴った。
ユーゴからだ。

「樹、楓ちゃんと一緒か?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「楓ちゃんに聞いたからに決まってるだろ。お前とデートがあるたびに嬉しくて報告してくれるからな。そんなことより飯、まだだろ?」
「これから食べに行く」
「ちょうどいい。一緒に食べよう」
「何がちょうどよくて、どうしてユーゴ君と一緒に食べなきゃいけないんだよ」
「りか子が2人に会いたいって」
「僕は別に会いたくないから遠慮しておく」
「冷たいこと言うなよ。あいつやけに2人に会うのを楽しみにしてるから頼むよ。俺がごちする」

樹は少し間をおいてから「僕はまったく気乗りしないけど一応、楓に聞いてみる」と、スマホを耳から離した。

「ユーゴ君が一緒にごはんを食べてくれないかって。ご馳走してくれるそうだけど、彼女も一緒らしい」
「彼女?」
「ユーゴ君の彼女のりか子さん。会いたくないでしょ」
「アメリカの大学に会いに来た樹の元お姉さん?」
「そう」

楓は少し考えてから「いいよ、ダブルデートだね」と答えた。

名前を聞いてからずっと気になっていた『りか子さん』に楓は会ってみたいと思った。
樹の元姉でユーゴの今カノで、アメリカ出張中にわざわざ樹に会いに行くほど樹を気に入っている『りか子さん』に。
彼女もきっと樹の彼女はどんなだろうと楓に興味を持っているに違いない。

ホテルはチェックアウトしなかった。
それはまた2人で夜を過ごすという暗黙の了解だった。