「いっそ、そっけなくしてみたら」

カップを意味なくグルグルまわしていた手を止めて、健夫が上目遣いで楓を見た。

「なんで」
「押してダメなら引いてみろっていうじゃない」

プライドが高い美幸には、意外とこの伝統的な方法が上手くはまるかもしれないと考えたわけだ。

「それうまくいくと思う? リスキーじゃない?」
「どうせ切羽詰まってるんだからノーリスクでしょ。ダメならまた押せばいいじゃない」
「日向さん、他人事だと強気だね」
「うん。他人事だもん。」

健夫が腕を組み、唇をキュッと結び黙考する。
講義中でもめったに見せることのない集中した面持ちだ。
近くの席で談笑していた学生のカップルが勢いよく立ち上がる。
がたんと大げさな音が響きわたり、それを合図に健夫がぱっと目を見開いて楓を見た。

「ありかもしれない」