絶対にずっと好きだと証明しましょう

「だよね」
「バーカ、心では号泣してるんだよ」と、ユーゴが楓の心の内を代弁してくれる。
「それにしてもなんでこんな早くに起きて身支度してんだよ?」
「ユーゴ君から電話がある気がして」
「まじかよ!って、そんなわけないよな。嘘だろ」
「嘘だよ」
「なんだよ、じゃあなんでだよ」
「リカ子さんと朝ごはん食べることになっているんだ」
「ちょっと待て。なんでりか子がそっちにいてお前と朝ごはん食べるんだよ」
「さっき電話で起こされたんだよ。仕事でニューヨークに来たついでに来たの。そっちに行くから一緒に朝食食べよう。7時半にカフェテリアでねって、一方的に言って切っちゃった」
「なんでわざわざコネチカットまで行ってお前と朝飯食べるんだよ」
「知らないよ。せっかくだから元弟に会おうと思ったんじゃないの」
「俺は何も聞いていない」
「僕だって今さっき聞いたばかりだ」
「おい、りか子に誘われても絶対乗るなよ」

りか子という女性の登場でユーゴは楓のために電話をかけたという趣旨どころか楓の存在も忘れて樹と話し込んでいる。
楓の存在は忘れられ、ユーゴと話す樹の顔をスクリーン越しに眺めているだけだ。

「朝っぱらからなんの誘いがあるんだよ。だいたい元姉でユーゴ君の彼女の誘いになんかのらないよ。あ、もう行かないと」

通信がぷちっと遮断された。

「あ、切られた」
「ひどい。私、ほとんど何も話してないのに。ていうか、私の顔もろくに映ってませんでしたよね」
「ごめん。りか子の話がでてきたからつい。時間も遅くなったしお詫びに家までタクシーで送るよ」

ユーゴと楓は店の前から大通りまで出て、すぐに赤ランプを灯して走ってきた空車に乗り込んだ。

「りか子さんて樹のお姉さんでユーゴさんの彼女なんですか?」

楓は樹に姉がいることも聞いていなかった。
家族構成すら知らなかったのだ。

「元姉だけどね。樹の2番目のお父さんの前妻との娘だから血のつながりはない。樹より4つ年上で、俺は17歳だった大学彼女の家庭教師をしたのをきっかけに親しくなった。俺が大学を卒業してから付き合うようになったんだけど最近すれ違いが多くて」

気ままに飛び回る蝶とそれに振り回される者たち。
もちろん蝶は樹とりか子で、楓はユーゴが同士のように思えてきた。

「ご苦労、お察しします」と言うとユーゴは窓の外を見たまま苦笑いした。

「ペアが入れ替わって一緒にいるって、なんだかだよなあ」