午前中で講義を終えた樹と4時限目まで授業があった楓は夕方5時に水道橋駅で待ち合わせた。
楓が4時50分に駅に着くと樹はすでに改札を出たところに立っていた。

白のボタンダウンのシャツにネイビーのチノパンというシンプルな服装が、背が高くすらりとした樹にとても似合っている。
といっても楓から見たら樹は何を着てもお洒落で似合っているのだけど。
楓は樹を見るたびいまだにドキドキする。
高校生の時から樹への想いに慣れることがない。
樹を見たとたん、心臓が頬を染めてときめくのがわかる。

樹に向かって駆けていく。

「ごめん、待った?」

樹は軽く首を振り「急がなくてもいいのに」と笑って楓の手をとって歩き出す。
どこに連れていかれるのかと思えば駅を出てすぐ視界に入る東京ドームシティアトラクションだった。

チケットカウンターで樹がナイト割引パスポートを買って渡してくれる。
最後に遊園地に行ったのはいつだろう。
確か小学3年生の時に両親に連れて行ってもらって以来だ。
バイキングやパラシュート。
そして何といっても空で輪を描く大きな観覧車を見上げ、楓は子どもみたいに「うわあ」と声をあげた。

付き合い始めて間もないころ、楓は『樹と行きたいところ』『樹とやりたいこと』『樹と食べてみたいもの』などウィズ樹リストを勝手に作って樹に押し付けたことがある。
その『樹と乗りたいものリスト』に夜の観覧車を入れていた。

「もしかして覚えていてくれたの?」
「正確には夜の観覧車だったけどどうする?」

7月の夕暮れは遅く、空はまだ十分な光を保っていた。
パスポートチケットなのでアトラクションは乗り放題だ。
2人は先に他の乗り物に乗ることにした。