楓と樹はずいぶんと長い時間、歩道橋の上にいた。
並んで車を見ているだけなのにいつまでも飽きることはなかった。

「とりあえず車を買おうか、僕たちの。で、僕はずっと楓とドライブを続ける。ってどうかな?」
「せっかく続けるって言い切ったのに確認しなくていいから」

もちろんいいに決まっている。

「僕は水色の車がいいな」
「水色? どうして?」
「こうして誰かが歩道橋の上からのぞいたときに目立つよ」
「そんな理由? それ必要かな」

キラキラ光るヘッドライトの流れを無邪気に眺める樹の横顔をのぞいて楓は笑う。
ついでに樹の鼻梁はまっすぐできれいだなと見とれていると、樹がほらと腕を伸ばして前方から走ってくる車を指した。
見るとまるでその車だけ晴天の青い空を連れてきたようなブルーのワゴンが走ってきた。

「ね」
「うん、いいね」
「どこに行こうか」

樹と一緒ならどこでも、いつまででもいい。
ずっとずっと車を走らせて、季節が変わっちゃっても構わないと楓は思う。


ハロウィンのカボチャの口のように尖った細い月。

「車で行けるかな」

樹が真面目に答える。

「それより運転できるかな。私たち、2人ともペーパードライバーだよね」
「じゃあまずはペーパードライバー講習に行こうか」
「ずっと遠く。あそこまで」

楓は道路のずっと先に光る三日月を指した。

「そこからかあ」
「うん、そこから始めよう」
「ねえ、私おばあちゃんになっても樹のこと好きだよ。ずっとずっと好きだから」

もう一度唇が降りてきた。目の端で細い月が笑っていた。