店を出て、楓と樹はまたくすんだモスグリーンの歩道橋に上った。
誰もいない地上から少しだけ高い場所。
いつものように2人は並んで柵に腕を乗せ、足元を通り過ぎていく車を眺める。
右の車線は白や黄色のヘッドライトが流れ、左側には走り去るテールランプが赤く続く。

「みんなおせっかいだね」

ユーゴも未沙も美幸も。

「危うく一生続くはずの実験が終わるところだった」

一生? 楓は驚いて隣に顔を向ける。

「高校生の時、楓に告白されてすごく嬉しかった。でも、その後いつかくる別れの方がこわかった。付き合ってもすぐに別れるものなんだって身近な存在に刷り込まれていたからね。だから、もし楓と別れるってことになっても大丈夫なようにずっと用心してきたんだと思う」

それがふらふら、ふわふわの正体か。

「でも失敗した。長年の用心はまったく役に立たなくて、楓が去っていったときにはざっくり深手を負った」

樹は自分の胸をナイフで刺すマネをした。

「ユーゴさんが聞いたら俺のおかげで悟れてよかったな、とか言うね」
「言うね。だから絶対言わない」

遠くで犬の鳴き声が聞こえた。
太く低音の声から察するに大型犬だろう。
5回吠えて鳴き声は止み、車が走る音だけになった。

ここはとても素敵な場所だ。
ねえそう思わないかと楓が樹に振り向くと、ゆっくりと唇が重なった。

樹の唇は甘い。
楓は目を閉じてその甘さに浸る。
唇から体がとろけて溶けていきそうだ。