「ただいまぁ。」

電車を乗り継ぎ40分程かけて帰宅した自宅はやはり安心感がある一方で、仕事を退職する旨を母親に伝える緊張感が心を疲れさせる。

「···········。」
「あ、あれ?ただいま!」
「············」

返事がない。
いつもならすぐにキッチンから忙しそうに、おかえりぃと声が響くのだが。

リビングへ入ると食卓に置き手紙が置いてある。

「留守か。どっか行ったのかな?」

そう呟き手紙を見やれば、仕事で急遽行かなければならなくなったと走り書きがしてあった。
離婚後、母親は元々やっていた監察医に復帰。
光がいる研究所とも繋がりのある病院だ。家計のため昼夜問わず、緊急連絡が入れば病院へと行くのが常だ。

医師だから裕福な暮らしをしていた訳では無い。
父の散財癖によって、家族の知らないところで多額の借金を抱えていたため返済に必死だったのだ。
それもあっての離婚だった。
光は苦労する母を見てきたこともあって、仕事はきちんとした所で安定的に勤めていきたいと思っていたが····。

親戚の紹介で入れた研究所とはいえ、母もとても喜んでくれた。
「これで私も少しは安心して生きていけるわ!」
なんて言っていたのがついこの間の様に感じてしまう。

「はぁ。何か緊急で連絡が入ったんだなぁ。」
小さくため息を着く。

(お母さんには本当に申し訳ないな····。
あんなに喜んでくれてたのに。·····いざとなると迷うな···。)

残念な気持ちもありつつ、気持ちを告げずに済んだホッと感もある。

「お腹すいたし、なんか適当に作っておこうかな。」

食事を作り、食べた後も母は中々帰らず。
お風呂も入り自身のベットに横になる。

今の仕事を頑張ってやることで認めてもらい、正社員を目指すべきか····。
一時の感情で国立研究所を辞めてしまうのは勿体ないか····などなどグルグルと頭の中はそればかり。

「てか!!!そもそもあの部長が1番ダメなのよっ!アイツさえ居なくなれば絶対にまだマシになる······ハズ。」

若干モヤモヤしながらウトウトと睡魔に襲われる。