「只今より七番への筋力増強剤の点滴実験開始します。」

「暴れるから両上肢と両下肢は鎖にて拘束してから実施するように。」

「承知しました。」


ジャラジャラと猛獣にでも付けるような重い鎖が骨張った両手両足に装着され、無機質なベッドへ固定される。

「七番君。悪く思わないでね。
これは国のためになる大切な実験よ。
それに何かあれば、またすぐに私たちが対処するから安心してちょうだい。」

研究員だろう。
白衣を着て、髪を綺麗にまとめた40代半ばの女性が無表情のまま手早く固定していく。
長くボサボサの黒髪の隙間から死んだ魚のような目を見開いたまま、ベッドに固定された彼は話し掛けられているが、ピクリとも動かない。

「····はぁ。まぁ、話しても無駄ね。
じゃ実験始めるから、危険を感じたらこのまま呼んでね。」

そんな彼をジロリと横目で睨み、そのまま部屋を後にする。
コツコツとハイヒールの音だけが響く。

バタンッ。

乱暴に閉められた扉がどこか物悲しさを残す。



(またか。·····つまんねぇ。)

真っ白の天井を見つめる。
光を映さない乾いた瞳はぼんやりとしている。
これもまた午前中に行われた実験のせいか。

小さくため息を着くと同時に、既にセットされている持続点滴部分から点滴が開始されていた。

数メートル離れた場所からガラス窓越しに、数名の研究員がこちらを見ているのが分かる。
七の体に付けられた様々な配線が、体内の様子をモニターを通して研究員に情報を送っているのだろう。
チラチラとその情報が送られているモニターを見ながらメモをとる様子が分かる。

点滴開始数分後。
突然の強烈な吐き気に襲われる。
ガタガタと身体が小刻みに震え、ガシャガシャと拘束している鎖が大きな音を立てる。

「うぅっ!!!」

抗えない苦しみにただ吐くことしか出来ず、そのまま意識を手放す。


(俺はいつから七なんだ?
気がついた時には既にこの研究所にいたから、人造人間的な奴なのか?
······何にも分かんねぇ。)


こんな地獄の様な日常が毎日休みなく15年間続いた。