君のそばにいたい 〜『君が望むなら…』続編〜

 ところが彼は一瞬だけ間を置いたあと、

「……つれないなあ、仕事中の婆さんを連れ出す許可はもう取ってあるよ」

そう言い、私に手を差し出す。

「どうか、僕と食事に付き合って欲しい」

 その彼の声は真剣そのもの。
 私は思わずたじろいでしまう。さらに、

「……良かった、見つかった! やはり“君”は乙女のようだね。そんな反応をされたらドキドキしてしまうよ」

と、先ほどの軽い調子とは打って変わった穏やかな声。
 そのように穏やかな目でこちらを見つめて言われたら、なおのこと妙な気持ちになってしまう。

「っ、ふざけないで! もう、どこかへ行って!!」

 私は彼の視線を避け、振り払うようにそう叫ぶ。

「……僕は諦めないよ、また貴女のもとに来る。僕が探していたのは貴女だ」

 彼は真剣な目でこちらを見つめたままそう告げ、私の前から去っていった。


 勝手に周りに決められ、望まない結婚をした私。
 一緒になったカイトは私に対してとやかく言ったことはなかった。
 そして私自身も彼の言葉を避け、屋敷での自分の場所だけでなく心すら自ら離れて暮らしていたのだから。

 しかしこの彼は私にとって、年若くして結婚をし分かり合わなかったカイト以外の、初めての男性でもあった。