「…じゃあ始める?」
「う、うん」
「どの教科?」
「えと、数学…」
分かった、と始まった勉強会。だけど、
(し、集中出来ないよ…)
勉強を教えてもらえる事にはなったものの、緊張でそれどころじゃない。
だって目の前に綺麗な顔があるのだから。しかも少し身を乗り出しているせいか、距離が近い。
改めて見ると、ほんとに綺麗なんだもん。
芸術品みたいに整っていて、真剣に話す姿はすごく様になっている。
「ーーの」
せっかく教えてもらっているのに申し訳ないし、失礼なのに。
「ー夢野」
「へっ」
「説明、聞いてた?」
ーギク
あなたのことを見つめていました、なんて言えない。
「聞いてませんでした…」
「じゃあもう1回説明するから。ちゃんと聞いてて
(怒らないんだ…)
驚きつつ、今回は真剣に綾瀬くんの説明に耳を傾けた。
「ーーここは公式に代入して、ーー」
ーー…
シャっと赤ペンが丸を描く。
「…ん、正解」
「ありがとう綾瀬くん!すごく分かりやすかった…!」
綾瀬くんの説明はすごく理解しやすかった。時々つま付いても、ゆっくり一つ一つ教えてくれたから。
「…べつに、普通だし」
正直、数学は壊滅的だったからとても助かった。
「ううん、そんなことない!救世主だよ…!」
「…ふは」
救世主って、と顔をほぐした綾瀬くんにまたまた目をぱちぱちと瞬きした。



