……ん?手首?
ちら、ともう一度手首を見ると。
「わわわわっ」
手、触れちゃってる!
今さら、綾瀬くんに手首を握られていることに気づいた。
「あっ、綾瀬くん、手」
「ーいいから、じっとしてろ」
「ーーっ」
あまりにも真剣な表情だったから、何も言い返すことが出来なかった。
ーザー…
流れる水の音がキッチンに響く。
私の肌の赤みがひくまで
私たちは何も話さなかった。
ーー……
(…あ、お礼言わなくちゃ)
幸い、ご飯は出来上がっていて、あとは盛り付けるだけだったから良かった。だけど『皿落とされたら困る』なんて言われて座らされてしまった。
さっさとソファーに戻ろうとする綾瀬くんをひき止めた。
「ほんとに、ありがとう」
もしあのままだったら、本当に危なかったかもしれないから。とても感謝しきれない。
しかもご飯の準備も手伝わせてしまって申し訳ない。
「…べつに、ご飯作る人いなくなったら大変だから」
(……やさしい、?)
私は飯炊き係ですか…?ご飯を気に入ってくれてるのなら別にいいのだけど。
なんだか、綾瀬くんらしいとも思ってしまった。
ちょっぴり思ったこと。
綾瀬 弥生はただ冷たい人というわけではないかも、しれない。
リビングのテーブルに目を向けると、そこには可愛いねこがたくさん描かれた、いかにも女の子っぽい絆創膏が置いてあった。
「…ふふ、かわいい」



