田中主任は矢継早に指示を出した。

「岸くん、ホスト側と、あと端末側のファームウェア担当者に調査結果と意見を聞いてくれる?
横谷さんは過去に同様のトラブルがないか調べて、
あと、◯◯鉄道は特注の改造が入ってるから、
角くん改造箇所が影響していないかチェックして

それから、芳崎さんはもう少しファイルを調べて、ログからプログラムの流れを追いかけてくれる? できるかな?」

主任が心配したのには訳があった。
このプログラムが開発されたのは15年以上も前の話で、当時のプログラマーは誰一人残っていなかった。
メンバーが入れ替わる度に引き継ぎは行われてきたけど、何十万ステップもあるプログラム全体を把握している人は一人もいない。

そんな大仕事を頼まれても、麻理さんは全く怯まない、勝ち気な性格で、
「やってみます」と答えた。

主任は麻理さんの返事に満足げに頷いた、

「私も調べてみるから、このログは貰っていくよ」
「はい、分かりました」

田中主任に言われて
もう一度端末の前に戻って椅子に座ると、麻理さんは大きなため息を一つ吐いた。

「私より皆んな先輩なのにねー、なんで主任は私に一番難しい事を頼むんだろう」

「麻理さんが頼られてるって事ですよ」

「そんなの余り嬉しくないんだけどね、
 愚痴っててもしょうがないぞ麻理、やるかー」

彼女は自分で自分を鼓舞すると、腕まくり?をして端末の画面に向き合った。

「麻理さん、半袖ですけど、、」

「うるさい、一連の流れが大切なの!
あーんもう、やる気が逸れたじゃない、
もう一度、ぺっ、ぺっ」

べつに重たい物を持つわけじゃないから、、

逆境でも、ポジティブな考え方で問題にあたる麻理さんは、本当に尊敬できる先輩だった。