新人研修の休憩時間に、コーヒーを飲みながら同期と雑談していると、飲み物を片手に芳崎さんが歩み寄って話しかけてきた。

「君嶋くん、研修はどう、難しい?」

「そうですね、学校で習ってきた事とはレベルが違いますから、少し戸惑ってます」

「私も新人の時はそう感じたから、心配しなくても大丈夫だよ」

そこに同期の武田くんが、二人の会話に割り込んできた。
武田くんは芳崎さんに気があるみたいで、いつも何かにつけて絡んでくる。

「なんか芳崎さん、君嶋くんばかり贔屓してないですか?」

「そうかなー、でも私は君嶋くんの教育担当でもあるからね、多少の事は大目に見てもらえるかな」

「君嶋くん、芳崎先輩にマンツーマンで教えてもらえるなんて幸せだね。羨ましいよ」

職場では芳崎さんは隣の席で、僕は仕事に慣れるために彼女に与えられた仕事をアドバイスを受けながら手伝っていた。


芳崎さんは壁に掛けてある時計に目をやると、
「さぁ、休憩時間は終わり、続きをやるよ」

そう言って同期の皆んなを会議室へと追い立てた。


仕事はできるし、美人で人当たりもいい。

しかも、お姉さん的な気質で年下に好かれるタイプなのだろう、
同期の男子は、皆憧れの眼差しで彼女を見ていた。


新人研修は午前中だけで、
午後はそれぞれ配属先の職場に戻って、教育係を務める先輩について業務を行うことになっていた。


職場の皆んなは、彼女の事を"麻理さん"と呼んでいた、

「どうして、皆んなは芳崎さんの事を苗字じゃなくて名前で呼ぶんですか?」

ある日気になって彼女に聞いてみると、

「私がそうして欲しいからだよ、その方が親近感があるでしょ。私は他人行儀が嫌いだから、皆んなに名前で呼んでってお願いしてるの」

「じゃあ、僕も麻理さんて呼んでいいですか?」

「全然構わないよ」

確かに名前で呼べば親近感を覚える。
彼女との距離が、一層近くなった気がした。