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明日からまた学校だるいな、なんて思って歩いてた私の腕を誰かが掴んだ。振り返れば、短髪の学ラン姿の男の子が立っている。正直めちゃくちゃ好みの顔。ナンパだったら、いいかも。運命的だし、なんだか。
持ってるエナメルバックには、この前見に行った幼馴染の試合の対戦校の名前が書かれている。そういえば、居たかもしれない。試合には出てなかったけど、すごく綺麗な姿勢でお辞儀をしていた人。
「どうしたんですか?」
「すいません、人違いです」
「あ、そうですか」
するり、と解かれる手がなんだか寂しくて、私が次は腕を掴んでた。
「連絡先交換しませんか」
まるでナンパみたいな、やりとりなのに。目の前の彼は、顔を真っ赤に染め上げて手で隠す。慣れてない雰囲気に、背筋がゾワゾワっとして意地悪したくなった。
「いや、俺、好きな子がいるんで。叶わないですけど」
「その子の代わりというか、練習相手だと思って! 試合見たんです、先週。試合には出てなかったですけど、お辞儀が印象に残ってて」
思ったことをするりと言葉にすれば、断固拒否の姿勢だったのが緩んだ。彼のスマホはもうポケットから、取り出されている。
「俺のはこれです、あの、髪染めたりしてますか?」
「へ?」
「いや、いいんす。なんでもないです」
メッセージの欄に表示された名前を見れば、リュウというらしい。
「リュウくん」
「あ、はい。えっーと、瑞稀さん」
「今度一緒にどっか行きませんか? 色々聞きたいし」
「あー、まぁ、部活が休みの日なら」
「おっけー、連絡します」
ぺこりっとまた綺麗なお辞儀をして、去っていくから。多分もう恋は、始まってた。違う人を見ていて、その人を探していて私と間違えたこともわかってるのに。



