綱くんの儚げな表情に胸の奥がぎゅっと締め付けられる。人のあたたかい温もりを知ってしまった私は、彼に触れたくて仕方ない。そんな自分に恥ずかしさを覚えつつも、欲に正直に手を伸ばす。



「・・・・・・もう一回ぎゅっとして?」


私は愛しい人に手を伸ばす。ふわっと香るのは花束のような香りではなく、かすかに鼻につく薬品の匂い。その現実に胸が苦しくなる。


綱君が私に応えるように、ぎゅっと抱き寄せる。あたたかい温もりが包み込んでくれた。


好き。大好き。

私を暗闇の世界から、救い出してくれた人。



「好き。大好きだよ」

「俺も・・・・・・大好きだよ」


お互いの体温を確かめ合うように、抱きしめ合った。この時間が永遠に続けばいいのに・・・。
そう、願わずにはいられなかった。



「・・・・・・お母さんにも相談しようか」


腕からするりと抜け出して、正面に向き合った。
綱君のことを、あんなに大切に思っているお母さんに、内緒にはしたくなかった。


「もう、言ってある」


「ええ、」


「病気には殺されない。好きな女にキスされて死ねるなんて、贅沢だろ?って」


「・・・そん、なこと、お母さんが許すはずない」


「許すも、許さないも、俺の人生だから。俺の最後は自分で決める」



意を決したような面持ちで、私を見つめる。
そんな顔をされたらもう反論出来ない。私も決断しなきゃいけない。まだ決められない私の腕を引っ張ると、彼の腕の中にすっぽりと収まった。


「・・・茜。頼む、俺の最後の願い叶えてくれ」


耳元でとびきり甘い声で囁いた。
ずるい。そんなこと言われたら・・・。


———私の負けだ。