⋆⸜꙳⸝⋆



家に帰り部屋で声を押し殺して泣いていると、トントン、と部屋のドアがノックされた。
 

「茜、ちょっと話せる?」

「・・・・・・う、うん」


神妙な面持ちで部屋に入ってきたお母さんは、私の泣き腫らした目をじっと見つめて言葉を放つ。

「茜、最近泣いてるみたいだけど、なにかあった?」


お母さんに、綱君のことを言っていなかった。
好きな人がいることも、好きな人が癌だということも、言えないでいた。


言わなかった理由は、心配をかけたくなかった。
お父さんが癌と分かった時のお母さんの心労具合を見てるので、これ以上負担をかけたくなかったら。




「う、うん。ちょっとね」


「最初はお父さんの病気のことで泣いてるのかと思ったけど、きっと、違うわよね?」


「・・・・もう少し待ってもらってもいい?」


自分の中で、もう少し整理してから、きちんと話したいと思った。


「分かった。茜が言ってくれるまで、お母さん待ってるから」

「うん。ありがとう」

「お母さんね、茜に話さなければいけないことがあるの」

「・・・どうしたの?」


お母さんの放つ空気感が、ただの井戸端会議ではないことを教えてくれている。