「いきなり話しかけてごめんなさいね。
綱からも話を聞いてて、あなたが茜さん?」
「・・・・・はい」
「やっぱり。そうじゃないかと思ったんだ」
「・・・・・緩和ケアって知ってる?」
「テレビなどで、知ってる程度です・・・・・」
緩和ケア。その言葉を聞いただけで、鼻の奥がツンと痛くなる。込み上げてくる感情を我慢するのに必死だった。
「緩和ケア病棟にいるってことは、死を宣告されてるの。もちろん、緩和ケア病棟の全員がそうって訳ではないけど・・・・・。綱は癌が全身に転移してしまって、手の施しようがないって言われてる」
コクリ、と頷く事が、今の私に出来る精一杯だった。そんな私に視線を向けて、言葉を続けた。
「綱は、死に向かって歩んで行かなければならない。途轍もなく不安で怖いと思う」
"死に向かって歩んで行かなければならない"
この言葉が重く心にのしかかる。
私は堪えていた涙を抑える事ができなかった。必死に我慢していた涙は、1滴頬を伝えばとめどなく溢れてきた。ここで私が泣くべきではないと頭で分かっているのに。止めることが出来なかった。
そんな私を優しい顔で見つめながら話を続ける。
「緩和ケア病棟に来たのは、綱の意思なの。
人生最期のステージへの準備と、自分でいろいろ模索したいって」
「なんでそんなに頑張れるの?って聞いた事があったの。そしたら『クラスに辛い環境なのに、頑張ってる奴がいる。俺も負けれないな』って笑ってた」
「・・・・う、うっ」
泣きすぎて、上手く言葉が出てこない。
声を出さないように我慢していたけれど、完全に涙腺は崩壊した。心も崩壊している。



