鬼の子



体育館を離れて、誰もいない廊下をお姫様抱っこされながら、走っている。


球技大会は、主に校庭と体育館で行われている。みんな応援や試合に出ているからか、校舎はシンと静まり返り、綱くんの走る足音だけが鳴り響いていた。



走る振動で耳元にあたる胸板から、どくどくと速い鼓動の音が聞こえてくる。走っているから速いのか、距離が近いから速いのか。

真意は分からないけれど、私の速くなる鼓動の理由は、まぎれもなく後者だ。



私は綱くんの心臓の音をもう少し聞いていたくて、揺れているフリをして、耳を胸板に寄せてみる。


ドクドクと聞こえてくる鼓動は、とても耳障りがいい。誰もいなくなっても、お姫様抱っこされ続ける現状に、急に恥ずかしさが込み上げてきた。


「・・・・綱くん、そろそろ、お、おろして」

おずおずと問いかけるも、何故か返答はない。


「綱くん!おろして!廊下は走らないっ!」


返答がなくて、焦った私は思ったよりも大きい声が出た。私の声が耳に届いたのか、ようやく立ち止まった。そして、スッとゆっくり廊下に下ろしてくれた。