温かい手の感触に触れて気持ち良くなったまま、また意識が途絶えていたみたいだった。



目を覚ましたら、柔らかい座布団の上だった。



ここはどこだろう?



暖かくて、明るくて、気持ちがいい。




部屋の向こうで水が流れる音がする。




戸が開く音。



知らない人が入ってきた。



『ふぃー。さっぱりしたぜぃ』




びっくりして、思わず身を縮める。



『なんだ、起きたか』


そう言ってその人は僕の頭を乱暴に撫でる。



この手の感触……



さっき雨の中で抱きしめてくれた人かな…。




ならお礼を言わないと。



『あっ、あの…その…、えと、さっきは助けてくれてあ、ありがとう…』




緊張してうまく喋れなかった。


『あぁ。腹減ってねぇか?』




そう言ってその人は古びた冷蔵庫から缶を取り出した。

……缶詰め?




じゃないみたい。
口を缶に付けて何か飲んでいる。




『お前はこっちな』



何か気になったから、近づいてもっとよく見ようとしたら、その人は茶碗に入ったミルクを僕の鼻先に近付けた。



僕はお腹が空いていたのを急に思い出す。

鼻をくっつけるようにして、ミルクをお腹いっぱい飲んだ。



『お前名前はよ?』

その人はビニル袋をガサガサ言わせながら中からお弁当を取り出した。


『俺は銀二な』


『僕は、えと…えーっと……』

やっぱり思いだせない。


『わかんねーか。

こいつも食うか?』


そう言って、銀二は自分のお弁当を半分、蓋によそってくれた。




記憶がなくても、こんな風に誰かと何かを分け合うって初めてだと思う。




だから、嬉しくて、

とってもしあわせだった。