永美里に幸せになって欲しい。
最初は本当にただそれだけだった。

誓って断言するが、この時はやましい気持ちは一つもなかったんだ。

デートしようなんて言い出す奴が何を戯言を、と思われるかもしれないけど、偽装恋人のクオリティを上げるためでしかなかった。
絶対にこの縁談を破棄するならば、生半可な嘘では意味がないと思った。

申し訳ないが俺はそこまで立ち回りも口も上手くないし、どちらかといえば不器用だと自負している。
永美里にとっては初対面の得体の知れない男だろうし、真剣に考えていることを伝えて少しでも安心材料になればという思いもあった。

結局それは裏目に出た。

俺は永美里に二度目の恋をするという過ちを犯した。


永美里はあの頃と何も変わらず、純粋なままだった。
両親と死別しても前を向いて、今をしっかりと生きている。

伯母からの扱いは聞いているだけでも良いとは思えないが、決して恨むことなくむしろ感謝していた。
それでも自分の意思で結婚したいという、強い思いも持っている。

少女のような無邪気さを残したまま、周囲を慈しみ感謝し、自分の運命に負けずに進む強くて美しい女性に成長していた。

父に反発して我を突き通すことしかできない俺とは、大違いだと思った。