お父様に背いてまで自分の夢を追いかけている。
私はそこまで飛び出す勇気がなかったから。


「…ありがとう」

「…っ!」


――ああ、まただわ。

青人さんに微笑まれると、なんだか胸が苦しくなるの。
胸の奥がきゅうっとなって、ドキドキが止まらない。

この気持ちは何――?


* * *


「家まで送っていただいて、ありがとうございます」
「いや、今日はありがとう」


あっという間に1日は終わってしまった。
偽装デートは想像以上に楽しかった。
終わってしまうのが惜しいほどに。


「永美里、伯母さんに言えそう?」
「はい、頑張るわ」


次の段階として、私が伯母に「会って欲しい人がいる」と切り出し、青人さんのことを恋人として紹介する。
結婚したいと真剣に将来を考えていることを伝え、説得する。

とても難しそうだけど、やるしかない。


「また連絡します」

「うん、それじゃあおやすみ」

「おやすみなさい」


私は青人さんの背中が見えなくなるまで見送った。
優しく気遣いができて真面目で、初対面の私なんかのために色々考えてくれる。

普段はスマートでカッコよくて大人なのに、たまに見せる子どもっぽい笑顔がたまらなくかわいい。

こんな人が本当の恋人だったら、こんな人と結婚できたら――…やだ、私ったら。
何を考えてるの…。

私にはハルトくんがいるのに――…