「…月」
歯みがきをしに向かった洗面所には、すでにお母さんが、化粧を始めていて。
邪魔にならないように、そっと歯ブラシを取ろうとした───はずだった。
「……なんのつもり?」
こちらを振り返って睨みつけてくるお母さんの表情と、無機質に吐き出された言葉に、思わず震える。
「……朝は、その、偶然で……」
「…朝のことじゃないんだけど」
恐怖に震えていることが見破られないよう、頭の中で言いたいことを整理してから言ったはずなのに、
────あっけなく遮られてしまう。
そう、いつも陽咲がいないところでグチグチと怒られるのは、私が器用に色々なことをこなせないから。
勉強も運動も、その他もろもろ。
……全てにおいて、私は陽咲より劣っている。
考えていることが分からなかったからか、お母さんの目がより細まって……。
「……なに、年下の陽咲に反論させてるのよ」
……ほら。
また、だ。
結局、私がいつも怒られるのは、陽咲より年上なのに、年上らしいことが何ひとつできないからで。
「いつもお母さん言ってるでしょ?言いたいことがあるならはっきり言いなさいって」
「ちがっ…、そんなことはっ…」
……そんなことないのに。
言いたいことが言えないのは、いつもお母さんが途中で遮ってしまうから。
だけど、そんな反論すら、私には───、
────言えない。
結局何も言えない私を見て、大きくため息をついたお母さんは、
「もう……、心底失望したわ」
そう言って、服を着替えに行ってしまった。
「…ごめ、んなさい……」
────きっと私が、震えた声で呟いた言葉は、届いていないだろうな、と思いながら。

