「むぅ」
「…誰?」
脱力した私の頬を棗がつまむ。
「んえ」
「涼介」
「……お兄ちゃん?」
「は?」
私の頬をむにっと掴んでいた棗は気の抜けた声を出して手を離した。
その顔は珍しく分かりやすいくらい驚いている。
「どうしたの?」
「……なんでも」
そしてまたマリアナ海溝ため息をつくのであった。
「…服でかかった?」
「チビって言うな…」
棗が貸してくれたトレーナーは袖から手も出なければ肩もずり落ちる。
ズボンは緩すぎるからウエストを絞って髪ゴムで結んだ。
ちがうよ、私が小さいんじゃなくて棗がでかいんだよ。
でも彼シャツ憧れてたから大興奮なんだよ。



