「ねえ、今日は実家帰るの?」



「いや、明日朝からバイトあるから家戻る」



「…泊まっちゃダメ?」

「……ダメ。」





大学生になってすぐ棗は塾と飲食店2つでバイトをし始めた。



家賃は自分のお金で賄いたいって、棗のご両親は全部出すって言ってくれてるのに頑固な棗が譲らず。


優しいんだ、棗は。




棗を見ると時々不安になる。


私だけ、高校生から何一つ変わってないんじゃないかって。




特別大人になった訳でもない。


大学で一緒にいるのはだいたい同じ学部の美紗だし、学部は違うけど同じキャンパスに恭ちゃんもいる。




本当に、何も変わっていないんだ。




変わったことは――棗が隣にいないこと。それだけ。





「なに、見つめられすぎて穴あきそう」



「……寂しい」



「……なに、急にどうしたの」





ずっと我慢してたのに、急に胸が締め付けられるように寂しくて棗にギュッと抱きつく。




今更だけど重いと思われたくなくて、負担になりたくなくて、愛想をつかされなくて口にしなかった言葉。


寂しいって言ってしまったら余計に寂しくなりそうで言葉にするのは我慢していたのに。