「さりちはいい子すぎるんだよ。こないだのだって夏川が悪いじゃん?あれだけ煽って、殴られちゃえばよかったのにってあの場にいたみんな思ってたよ」
「だって、あの子虐待を受けてたって…私棗からその話聞いてて、知った上であの子に殴りかかって…目を閉じるとあの時の夏川さんの一瞬怯えたような表情が浮かぶの」
「夏川はあの時さりちに殴らせるつもりだったと思うよ。あくまでも俺の予想だけど、あいつは強かで性格悪い女だしさりちを悪者にして棗に取り入る気だったんじゃないかな
棗がさりちのことこんなに好きだったなんて、あの子からしたら誤算だったんだと思うけど」
「…っでも」
「さりちはさ、もっと棗のこと信じてあげなよ。たしかにあいつ、無愛想だし不器用だけどさ。あれでさりちのことめちゃくちゃ好きだよ」
「…っ、もうどうしたらいいか分かんないの…!私だって棗と別れたくないよ、でも夏川さんには棗しかいなくて」
「それはあいつが周りに目向けようとしてないからだよ。養護施設の人だって心配して学校によく連絡入れてるらしいし、あいつが拒んでるだけでこの学校きてからだっていくらでも友達作れたはずだ」
柏崎くんの淡々とした、でもいつものふざけた声とは違う話に1度スッキリしたはずだった頭が再びごちゃごちゃになっていく。
柏崎くんのせいじゃない。
この人はなんにも悪くない。
私が…私が臆病すぎるのが悪くて、棗を傷つけて。
柏崎くんにも、美紗にも恭ちゃんにも心配かけて迷惑かけて。
「――欲しかったの…」
「…なに?」
「行かないで、ほしかった…!棗は私といた時に夏川さんから電話が来て、行かなきゃって。夏川さんには棗しかいないって分かってるけど、電話出たらって言ったの私だってわかってるけど…!そばにいてほしかった…!」
「夏川さん夏川さん言うけど、じゃあ棗の気持ちは?夏川は棗に依存してるけど、棗がさりちを好きな気持ちは我慢しろってこと?棗の幸せはどうでもいいの?」
「ちがっ…!!」
否定しかけたけど、自分が言ったことを思い返せば柏崎くんの言う通りだった。



