「皇子様は、誠にお優しいのですね」と、女子達がクスクスと笑った。

 チャンス!今だ!

「ごめんください」

 私は、縁側に背筋を伸ばし正座をすると大きな声を出す。

「誰じゃ!?」

 一人が襖を開けるのと同時に、私は深々と頭を下げた。

「私は昨日、助けていただいた兎であります。アリマノ皇子《みこ》様にお礼をと、月より参りました」

「な、何だと!?」

 一瞬にして、女子達がザワツク。

 そりゃあそうだ。
 兎の耳つきフードを被った女が、いきなり鶴の恩返し風に現れたら驚くだろう。

 いや、私の頭を疑われる。
 だけどこうすれば上手くいくと、皇子が言ったのだ。

 絶対に上手くいくはずがないと思いながらも、皇子を信用するしか道はなかった。

「これは、これは。昨日の兎ではないか~」

 何故か、虚ろな目をした皇子が私にゆっくりと近づく。