「幾分か前のことにございます。孝徳大王(こうとくおおきみ)が、ご崩御された後に突然……」

「孝徳オオキミ?」

「アリマノ皇子様の、父君様にございます」

 皇子のお父さんってことは、オオキミは天皇って意味か。

「今の大王は、誰なの?」

斉明(さいめい)大王。孝徳大王の姉君様です」

 皇子のお父さんは、前の大王。
 そして叔母さんは、今の大王。

 “__皆敵だ”

 皇子の言葉を思い出す。
 患うふりをするのは、きっと自分を守るため。

 “__王位継承”

 その言葉が頭を過る。
 昔は一夫多妻で、側室も子供もたくさんいたと浜田が言っていた。

 だから誰を次の天皇にさせるかで、壮絶な争いをしていたって。

 私には無縁の世界だから、この時代の仕組みも考え方もわからない。だけど皇子が「狙われる身」と、いうことだけはわかる。