「あ、あのっ‼危ないよ‼」



思わず声をかけると、虚ろな瞳の彼は目を見開いた。

目の焦点が合うと、口をパクパクさせてなぜか焦りはじめる。



「こ、こんなことやめてください!まだ早まらないでください‼」

「それは、わたしのセリフだよ!今すぐ戻ってきて‼」

「先輩も反対側にいますよ⁉」

「あ、そうだった‼」



って、自分の状況を再認識している場合じゃない。

今は彼の気持ちをどうにか変えてもらう。
それが最優先事項だ。



「考え直して、ね?」

「それは俺のセリフです!俺もちゃんと戻るんで先に先輩が!」

「そんなこと言って飛び降りる気でしょ⁉君が飛び降りるくらいならわたしが……」

「何意味わかんないこと言ってんすか⁉」



目を見開いてツッコミを入れられた。

けど正直、わたしも混乱している。

気持ちがどん底で、なんかもう全てがどうでも良くなった。

だからいっそ、終わらせてみようかな?という迷いの中、屋上のちゃっちい柵を乗り越えた。

ここに来たら、自分の気持ちに向きあえるのではないかと期待して。

 
それなのに今、わたしと同じように柵を乗り越えて、自殺をしようとしている人がいる。

わたしは本気で自殺をする覚悟をもってここにいるわけではない。

覚悟を決められるかを確かめにきただけ。

でも、彼はわからないから……。