【短】自殺志願者に棒付きキャンディ



「えっと……」

「俺もなんです」


立ち上がった大吾くんはわたしとほとんど目線が同じだった。

真剣な瞳に、思わず胸がざわつく。



「大好きな人に好きな人がいるって知って絶望した。喜ぶことなんてできないっす。知らない男が大好きな人の頭を撫でているところを見て、すごく死にたくなった。すげーむかついて、わけわかんなくなって、とりあえず死にたくてここに来ました」

「え……」

「なのに、死のうとした俺の隣になぜかその大好きな人がいて、パニックになりました」

「待って……それってどういう……」

「失恋したって聞いて、嬉しくなりました。心の中でガッツポーズしてました」



いっきに話し出す大吾くんにわたしがパニックになる。

だって、なんかそれって……。



「綾先輩が失恋してくれて、申し訳ないけど俺はすっげー嬉しいっす」



ひどいこと言われてる。

なのにどうしてこんなに胸が熱くなるの……?



「俺はまだ頑張れるって言いましたよね?じゃあ、頑張らせてもらいます」

「え?えっと……」

「綾先輩の教えをしっかりと受け止めて、後悔しないために言います。俺、綾先輩のことが好きです」



まっすぐすぎるセリフに驚いてばかり。

だけど、いまのがいちばん驚いた。

急な展開についていけない。

だって、今日初めて会ったはずなのに……。



「どうして……」

「去年の夏、地区大会決勝の大事な回でエラーして負けて、俺は野球部を引退しました。みんな泣いて悔しがって、でも誰も俺を責めなくて、そっちのほうが余計につらくて惨めになりました」



棒付きキャンディを握る手に力がこもった。

わたしはじっと大吾くんを見つめる。