桜の木が花びらを散らしていく様子を上から見ると、それは綺麗でもなんでもない。

人間だって見た目はみんな違うのに、誰が誰だかわからない。

石ころなんてないようなものだ。

この高さから見れば、すべてがちっぽけに見える。

それは、わたしも変わらない。
これからそちら側へ飛び込んでみようか、とかなんとか思ってみたりしている。


もう、いいかもしれない……。


重力に身を任せてみようか、と思った時に風が強く吹いた。

すると、背にしているスチール製の柵が揺れる。

老朽化しているためだ。
普通に危ない。

今すぐ壊れてもおかしくないから、屋上は立ち入り禁止になっている。

さっき、わたしがこちら側へ来たときも揺れたから正直びっくりした。

覚悟も曖昧なまま、本当に落ちるんじゃないかって……。



「え……?」



ハッとして顔を横に向ける。

そこには同じ制服を着た男子が、俯きがちに立っていた。

わたしの声に気づいて顔を上げた彼は、虚ろな瞳をしていた。

わたしがここにいることに気づかないほど追い込まれていたのかもしれない。

 
彼がここにいる理由。
それは、ひとつしかない。

気づいた瞬間、血の気が引いていく。