大和はすぐに解決策を示してくれた。
「ダンスの練習なら僕が相手になろう。それとドレスは……真珠が貸してくれないかどうか、聞いてみるよ」
「ありがとうございます。お願いします」
樹李亜はほっとした。が、樹李亜の報告を聞いて、桜子は眉を吊り上げた。
「樹李亜、それはダメ。マジでやめといたほうがいいよ。真珠さんに一生恨まれるよー」
「え? 恨まれる?」
「うん。大和さんはホトケみたいな人だからいいけどさ、真珠さんはそうじゃないよ。自分のパートナーが他の女子と踊るのを許さないよ。それにドレスは本人の顔なんだから、人に貸したがるわけないじゃん。でも大和さんが『貸してあげなさい』って言ったら断れないし、で、あんたを恨むよ」
「えーー……」
「男ってのは、こういう所、鈍いからね。気を付けた方がいいよ。……あんたにあたしのドレスを貸してあげられたらいいんだけど……」
桜子はぶつぶつとつぶやいた。桜子は背が高くがっしりとした身体つきで、樹李亜とは明らかに体形が違う。樹李亜が彼女のドレスを着るのは大分無理があった。
「どうしよう……実は、これからドレスを見にいらっしゃいって、真珠さんに言われてるんだけど」
「え、そりゃ心配だからあたしも一緒に行くよ。うまいこと断るんだよ、いいね?」
***
衣装保管部屋は一階にあった。これもアルファタワーの設備の一つ。衝い立ての裏側にある、目立たないドアが入り口。
照明は薄暗く、温度湿度は一定。そうやって衣装を損なわないよう厳重に管理しているとのことだった。
「遠慮しないで、どれでも好きなものを選んでちょうだいね」
ずらりと吊り下げられたドレスを示して真珠は言った。が、どことなくとげのある口調。険のある顔。
桜子がひじで樹李亜をつつく。樹李亜はうなずいた。
「あの、真珠さん」
「どうしたの?」
「どれも大人っぽ過ぎて……私にはまだ似合わない気がするんです。それで、もう少し私が大人になったら、またお借りできませんか?」
「そんなことないわよ。十分に似合うと思うけど……でも、そうね」
真珠はにっこりとほほ笑んだ。
「また気が変わったら、いつでも借りにきてちょうだい」
「ありがとうございます」
頭を下げてお礼をいいながら樹李亜は思った。
(桜子の言ったことは正しかった……)
***
真珠が去った後で、係員が保管庫を締めにやって来た。
樹李亜は何気なく聞いた。
「ここにあるドレスは全部、真珠さんの物ですか?」
「そんなことはありません。ご要望があればすべての方のご衣装をお預かりしますし……中には長らく、引き取り手のないまま保管している物もあります」
不審な顔をしていると係員が説明を続けた。
「学校卒業時にはご衣装をお持ち帰りいただくはずなのですが、なぜか残ってしうこともあって、……例えば、これがそうです」
係員は吊り下げられたうちの一つを示す。管理用のタグには、『20XX年11月10日 藤川秋子様 お預かり』。20XX年というのは、二十年前の日付だ。
係員が保管カバーを開けると、青い色のドレスが見えた。
「このドレスは……とても状態もよいですし、今ではなかなか手に入らないような、大変美しい職人技なんです。でもそろそろ、ご本人と連絡をとって、もしもの時には焼却処分しなければなりませんね……」
係員は名残惜しそうにカバーを閉めた。
樹李亜と桜子は顔を見合わせる。二人には、もしかしたら……、という思いがあった。
(ドレスが本人の顔とはいっても、二十年前のことを、気にすることはないんじゃないかな)
「あの、」
樹李亜は思い切って言う。
「ご本人への連絡というのを、私にやらせてもらえませんか?」
「ダンスの練習なら僕が相手になろう。それとドレスは……真珠が貸してくれないかどうか、聞いてみるよ」
「ありがとうございます。お願いします」
樹李亜はほっとした。が、樹李亜の報告を聞いて、桜子は眉を吊り上げた。
「樹李亜、それはダメ。マジでやめといたほうがいいよ。真珠さんに一生恨まれるよー」
「え? 恨まれる?」
「うん。大和さんはホトケみたいな人だからいいけどさ、真珠さんはそうじゃないよ。自分のパートナーが他の女子と踊るのを許さないよ。それにドレスは本人の顔なんだから、人に貸したがるわけないじゃん。でも大和さんが『貸してあげなさい』って言ったら断れないし、で、あんたを恨むよ」
「えーー……」
「男ってのは、こういう所、鈍いからね。気を付けた方がいいよ。……あんたにあたしのドレスを貸してあげられたらいいんだけど……」
桜子はぶつぶつとつぶやいた。桜子は背が高くがっしりとした身体つきで、樹李亜とは明らかに体形が違う。樹李亜が彼女のドレスを着るのは大分無理があった。
「どうしよう……実は、これからドレスを見にいらっしゃいって、真珠さんに言われてるんだけど」
「え、そりゃ心配だからあたしも一緒に行くよ。うまいこと断るんだよ、いいね?」
***
衣装保管部屋は一階にあった。これもアルファタワーの設備の一つ。衝い立ての裏側にある、目立たないドアが入り口。
照明は薄暗く、温度湿度は一定。そうやって衣装を損なわないよう厳重に管理しているとのことだった。
「遠慮しないで、どれでも好きなものを選んでちょうだいね」
ずらりと吊り下げられたドレスを示して真珠は言った。が、どことなくとげのある口調。険のある顔。
桜子がひじで樹李亜をつつく。樹李亜はうなずいた。
「あの、真珠さん」
「どうしたの?」
「どれも大人っぽ過ぎて……私にはまだ似合わない気がするんです。それで、もう少し私が大人になったら、またお借りできませんか?」
「そんなことないわよ。十分に似合うと思うけど……でも、そうね」
真珠はにっこりとほほ笑んだ。
「また気が変わったら、いつでも借りにきてちょうだい」
「ありがとうございます」
頭を下げてお礼をいいながら樹李亜は思った。
(桜子の言ったことは正しかった……)
***
真珠が去った後で、係員が保管庫を締めにやって来た。
樹李亜は何気なく聞いた。
「ここにあるドレスは全部、真珠さんの物ですか?」
「そんなことはありません。ご要望があればすべての方のご衣装をお預かりしますし……中には長らく、引き取り手のないまま保管している物もあります」
不審な顔をしていると係員が説明を続けた。
「学校卒業時にはご衣装をお持ち帰りいただくはずなのですが、なぜか残ってしうこともあって、……例えば、これがそうです」
係員は吊り下げられたうちの一つを示す。管理用のタグには、『20XX年11月10日 藤川秋子様 お預かり』。20XX年というのは、二十年前の日付だ。
係員が保管カバーを開けると、青い色のドレスが見えた。
「このドレスは……とても状態もよいですし、今ではなかなか手に入らないような、大変美しい職人技なんです。でもそろそろ、ご本人と連絡をとって、もしもの時には焼却処分しなければなりませんね……」
係員は名残惜しそうにカバーを閉めた。
樹李亜と桜子は顔を見合わせる。二人には、もしかしたら……、という思いがあった。
(ドレスが本人の顔とはいっても、二十年前のことを、気にすることはないんじゃないかな)
「あの、」
樹李亜は思い切って言う。
「ご本人への連絡というのを、私にやらせてもらえませんか?」